教育ICTリサーチ / 造形教育研究部・考える力研究部 ~クリエイティブな人材育成研究ブログ~

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【レポート】小学生×アラブ研究者(池内恵)「中東やイスラム教から見た世界を学ぶ!」 異才発掘プロジェクトROCKET:7月スクーリング_No.2

 前回に引き続き、7月11日・12日に開催された、異才発掘プロジェクトROCKETのスクーリングの内容と感想をレポートします。今回は、11日午後に実施されたアラブ研究者の池内恵氏による「イスラーム世界からみた世界」というテーマの講義の様子をレポートいたします。

 この講義の前(午前中)には、大討論会「今の世界情勢を議論する」が実施され、その様子は、前回のレポートでまとめているので、そちらも合わせてご一読いただければと思います。

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池内恵氏と聴講する子どもたち

なぜ中東について勉強しようと思ったのか

 まず、最初に中邑教授から、午前中に実施された大討論会で議論した内容を振り返りました。そして、どういう観点で池内氏の話を聴いたらいいか説明され、講義がスタートしました。(以下敬称略)

  • 当時、ベルリンの壁の崩壊のようなことが世界中のいろんなところで起こっていて、世界では何が起きているのかを知りたく、それで思想について勉強したいと思って、大学に入りました。
  • 思想が違うことで、考え方が違うこと、生活が違うことを知り、中東について勉強してみようと思いました。
  • 実際に中東に行ったりもしています。

中東で、初対面の人に聞かれることとは?

  • 最初に衝撃だったのは、初対面の人との自己紹介で聞かれることです。
  • まず最初に名前で、その次に宗教は何か質問されます。
  • 日本だと、宗教は何かなんて質問しないですよね。
  • それが、イスラム教では、宗教は個性よりも前にその人を決めるものという価値観なんです。例えば、男性・女性など性別が個性の前にあるように、宗教も同じような感覚なんです。
  • 最初に名前を聞くことも、理由があります。それは、名前には宗教が反映されるからです。
  • その人の名前を見ると、何の宗教かがわかるのです。
  • ただ、日本人はわからない。名前に印がないので、気になって質問をされる。という訳です。
  • 仏教は、イスラム教徒からすると、怪しい宗教だな・真実の宗教ってなんだ?と思われています。

イスラム教と日本は対照的!?ルールの違い

イスラム教の考え

  • この世にあるルールは、人間が作ったルールではなく、唯一の神がくだしたものである。
  • 預言者を通して、神の言葉・ルールをくだした。最初の預言者はムハンマド
  • 複数のルールをいったりきたりしている。
  • イスラム教では、宗教は文字で書かれて本になっているものが当たり前という感覚。
  • 昔はそう簡単に異文化に関わることができなかったが、だんだん関わることができるようになってきました。
  • ルールが世の中にあり、そのルールによって守るべきことが異なり、国、部活、友だちなど、さまざまあります。
  • 日本は、やってはいけないということは決まっているが、これをやったら幸せになるということはない。
  • 日本にとっての宗教は、サークルのようなもので捉えているが、イスラム教はそうではない。
  • 日本は、書かれていない規範を、読み取ってやらなくちゃいけない風習があるが、イスラム教は文字として書かれています。
  • イスラム教は、日本といちばん対照的。
  • ルールが異なる上で、話をしてもお互いに分かり合うことができないのは、当然です。
  • 社会においても、同じようなことが起きている。

質疑応答

 イスラム教のルールや考えを、日本との違いを交えて、とてもわかりやすくお話いただいたあとに、質疑応答の時間がとられました。子どもたちからの質問の前に、最初に中邑教授から、午前中の議論で話した内容を踏まえた質問をされてから、子どもたちから質問をしました。

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池内恵氏に質問する子どもたち

中邑 「午前中、今の世界情勢について子どもたちなりに話し合って、その中でルールがない方がいいのではないかなど、ルールについて議論をしたのですが、イスラム教において、ルールはどういう風に捉えられているのでしょうか?」

  • イスラム教は、明文化されたルールを教えられています。
  • 窮屈だと思うことはあっても、何をどう守られなくちゃいけないかが明確になっています。

中邑 「イスラム教における命は、どういう立ち位置になっているでしょうか?」

  • 命が大事というのは、どこの宗教でも言っていることです。
  • イスラム教は明文化していますが、その解釈がいろいろある感じです。

Gくん 「イスラム教に入りたいですか?」

  • 入りたいと思わないです。
  • いちばん最初のところ(この世にあるルールは、唯一の神がくだしたもの)を前提としたら、筋は通るけど、その最初が信じられないので。
  • そこを信じると、あとは信じることができる。
  • イスラム教を勉強していると、イスラム教徒にならないとイスラム教を知ることはできないんじゃないの?という人がいますが、それは半分あってて、半分間違っていると思っています。
  • 人間社会いろんな人がいて、人は多様なので、複数価値があるので、ひとつの価値しかないというのはおかしい。
  • そうならないために、イスラム教を信じていない。という感じです。

Gくん 「つまり俯瞰して見るってこと?」

  • 鳥の目になるという感じですね。上の方から全体を観ている感じです。

Bくん 「今のイスラム過激派は、キリスト教と違って、税を払えば生きていけるとしているが、他の教徒を迫害している。それをどう思いますか?」

  • 税金を払えば生きていけるという考えが間違っていると思います。
  • 人間は宗教で差別してはいけないという考えは最近の考えで、
  • イスラム教を信じていると、あとは論理的でつじつまが合うんだけど、イスラム教を信じていない人もいるということでイスラム教の教えに矛盾が生じてしまうんです。
  • 理屈が通じなくなってしまうことで、イスラム教でない人が間違っているか、その人がまだイスラム教の正しさに気づいていないということになる。
  • そういった矛盾を、うまく調節できない人や、その人たちを煽る人がいる。
  • そうして、強制的な解決策を示したくなる人がいるのだと思います。

Kくん 「他の宗教についてはどう考えていますか?」

  • 序列をつけています。
  • イスラム教に近いものと、中くらいのものと、遠く離れているもの、として見ています。
  • イスラム教が正しいという前提で、他の宗教を見ています。

Aくん 「ぼくがもし、自分が神だとイスラム教の人たちに言ったら、相手はどう思いますか?」

  • 自分が間違って「神」だと思い込んでいると思われると思います。
  • ありえないことを、なぜ言っているのだろう?と思われるでしょうね。

Cくん 「日本の一般の人は、ISの人がやっていることを理解できないが、イスラム教の人はISがやっていることを理解できますか?」

  • イスラム教徒なら理解できるかと言うと、多くは理解できない人が多いと思います。
  • ただ、分からないまでもない。という人はいると思います。

Cくん 「宗教は論理的なものですか?」

  • 宗教は論理的な部分と、非論理的な部分があります。
  • イスラム教だと、起源は非論理だけど、イスラム教徒の人はそこに違和感を感じていません。

Bくん 「イスラム教徒になったら税を払わなくていいというような現実的な宗教なのに、グローバル的に合わないのはなぜ?」

  • 合っているところと、合っていないところがあるからだと思います。
  • 摩擦があるのが悪いかといったらそうではない面もあると思います。
  • 個々のイスラム教徒を見ると、うまくやっている人もいます。
  • 適応するということの定義が何か。目的は何か。
  • 一人一人で捉えることもできれば、集団として捉えることもできる。
  • 個人を軸にして捉えると、抑圧に感じてしまうが、集団的な価値幸福の実現を目的とするのか、個人の価値を目的とするのかで、判断が変わってくると思います。
  • イスラム解釈の日本的研究をしている井筒俊彦さんが10年前に出した本が評判がよく、これでイスラム教を知るようになった人が増えました。
  • 井筒さんが興味を持てるのが、イスラム教と仏教が似ているところだと言っているが、それはイスラム教全体の1割くらい。
  • 残りの9割の部分に、国際事件などと絡みがあるのかもしれないと思っています。
  • どこを重視するかで観方がガラリと変わってくるものなのです。

まとめ

 小学生や高校生の子どもたちにとって、今回のようなテーマは、ニュースで見るくらいで身近に感じることが難しいと思います。池内恵氏の講義の前にまず自分たちで大討論会をしたこと、討論会でも自分事として捉えられるようにスタートしたこと、今回の講義では自己紹介というわかりやすい事例で違いを説明されたことで、子どもたちにとってわかりやすく、興味深く聴くことができたのではないかと思いました。

 また、この講義の後に、「ミクロの世界を整理する」というテーマで、いつも使う教室や廊下・階段の掃除を通して、ミクロで観るということの大事さを体験的に学ぶことをしていました。これまで「俯瞰して観る」ことの重要さを意識して討論をしたり、講義を聴きましたが、最後に真逆の視点で観ることも大事であることを学べる内容でした。
以下は、中邑教授のコメント。

  • きれいにするとか、汚いとか、どっちがいいかとかではなく、生活の中でこだわりを持とう
  • 全部でなく、どこでもいいからどこか一つこだわりを持ってやりきること
  • 汚れをどう落とすか、逆にどう汚れを活用するか

 掃除を、いつも使う部屋だからきれいにするということではなく、「普段の生活からこだわりを持つ」「ミクロな視点を持つ」という学びと絡めていたのがおもしろいなと思いました。自分の好きなことだけではなく、あらゆることにこだわりを持つこと、そういう日常からの意識が大事であることを伝えるために、掃除という題材で体験的に学ばせたのかなと思いました。
また、「俯瞰して観ること」と「ミクロな視点で観ること」という真逆なテーマを扱うことで、どちらの視点も大事であることが伝わったのではないかなと思いました。


(前田)